ムンバイ、終着駅の景色 Diary No.14
ムンバイは、日本で見たことのある景色がいくつも広がっていた。例えば、自分の宿からの最寄りのサンタクルス駅の跨線橋から遠くに見えたムンバイの中心部の夜景は、昔兄が住んでいた東京の代々木八幡から見た新宿の夜景に重なって見えた。駅の周りも商店街みたいな通りが広がっていて、いとこが住んでいた大阪の石橋駅の商店街のような景色だった。中心部に向かう電車も話す人の感じも、ムンバイは全てが懐かしい雰囲気をまとっていた。旅の最後にホーム感のある場所に行き着いて、僕とインドの気持ちの距離はぐっと縮まったように感じた。
ムンバイにいた2日間、郊外電車に乗って中心部のフォート地区に向かった。ムンバイを走る電車は、よく知られたドアのない電車だ。最初はどうしてそんなことになっているのか、よく分からなかったけど、慣れてしまえば、ドアに掴まって電車に乗るのは気持ちがいい。インド人を真似して、僕もそうしていた。ただインド人を真似して、電車が完全に止まる前に電車を降りたら、ゆっくりに見えた電車はかなり勢いがあって、こけそうになった。
ムンバイはデリーに比べてとても気持ちのいい街だ。空気もだいぶきれいだし、中心部に行けば、ゴミもほとんど落ちていない。海風に吹かれて歩くのも、海のないデリーではできないことだ。でも何よりムンバイで気持ちのよかったことは、人と人の距離感だった気がする。インド一の大都市で、多くの人が行き交う。それでいて、周りの人が全く他人というわけではなく、程よく重なり合いながら生きている。ムンバイの心地よい風に当たりながら歩いて、将来ここに住みたいという気持ちが生まれていた。
ホテルで仲良くなったおじさんもムンバイはインドの中でもかなりオープンマインドな街だと言っていた。
ムンバイで一日半過ごし、いよいよインドを離れる時が来た。ホテルにいたおじさんに別れを告げて、ホテルを後にした。空港まで、バスと電車と地下鉄を乗り継いで、最後は歩いているところをリキシャの親切なおじさんに助けてもらって空港に着いた。2週間前初めてインドに降り立ったムンバイの空港だ。
この2週間ほど、人生で感情が動いた時間はなかった。毎日新しい景色を見て、見たことのない人に会い、その度に怒って笑った。2週間前ただのきれいな大きい空港だった場所は、確実に僕の思い出の場所になった。インドであった人、訪れた街、全てに感謝の気持ちでいっぱいだった。2週間で積み上げたものはまだまだ語り尽くせていない。
後ろ髪を強く強く控える思いで、帰りの便のシンガポール航空に乗った。インドに行くと言い始めた2年前からの時間が、たった10時間足らずで巻き戻されてしまうのが、とってももったいなく思えた。
インドにはまた必ず来ると思う。こんなにインドは大きいから、また全く違う景色に出くわすのだろう。その時まで、むき出しで向かってくるインドを、真正面から受け止められるような素直な気持ちや好奇心を忘れないでおきたいと思う。
インドの旅、終わり。