インドのドアのない電車 日本企業とローカライズの話





 インドの電車にはドアがない。都市部の地下鉄や長距離の寝台列車(これも手動のドアはあるけど、大抵開いている。)こそ、ドアはあるけれど、都市部の通勤電車はドアが閉められないように固定されている。だから、常時ドアをガラ空きにして走る。

 

 日本のテレビでネタとしては見たことがあったけれど、実際に見て衝撃的だった。ドアがないこと以上に衝撃的だったのは、電車が混雑していない時間でも、人が車両からはみ出して、乗っていることだった。こんな感じ↓


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大きくドアを付けない(閉めない)理由は2つあるらしい。

 

1暑いから。インドの電車は寝台列車と新しい地下鉄を除いて、クーラーがない。真夏には40℃以上になるインドでは、電車の窓を開けるだけでは足りないらしく、ドアも開けるらしい。

 

2時間がないから。電車が混んでいてもいなくても、開いたドアからはみ出して乗っている人はいる。この人たちは電車が完全に止まる数秒前に電車から飛び降りる。ちなみに電車は停止寸前でかなり低速に見えても、勢いは結構ある。飛び降りると、慣性の法則で勢いのあまり、降りた瞬間に数秒走ることになる。その場で止まろうとすると、かなりの確率で転ぶことになる。

 

 気になるのは、ドアのない郊外電車が多く走っているインド最大の都市ムンバイでは、1日10人以上電車から落ちて死んでいるということだ。それでも電車は換気と乗り降りのスピードを重視して、ドアを全開にして走る。

 

 僕はインドを訪れた際、どんなところに日本企業は入り込めるのだろうと思って見ていた。概して、日本のメーカーは安全とか高性能を売りにしてビジネスをすることが多い。部品なら、それが大きな売りになるかもしれない。新興国の代表格のインドで見たそれは対極にあるものだった。人が死んでも効率性を重視して、ドアを開け続けたり、20時間以上の遅延が当たり前だったりするインドの列車。それを毎日使い続ける人たちに、日本の強みは通用するのだろうか。

 

 現地の並外れた常識を受け入れる姿勢、それに合わせる柔軟さ、そういうことが今後の鍵になるかもしれない。そう考えた。