卒論体験記⑧ 2018-2020

  本との出会い

 僕の所属していたゼミは、大学の中では比較的「忙しい」とされているゼミである。毎年、発表大会直前になると、発表スライドや情報収集などに忙殺されて、三徹!(大学生用語で三日連続で徹夜すること。さすがにそんなに徹夜したら、死んでしまうと思うが、徹夜することは僕のゼミでは結構ある。)のような状態が頻発した。僕も忙しすぎたのが、体調を崩す大きな要因になった。僕は忙しい状態を離れて、少しの時間と本を手にした。

 

 正直に言えば、オランダにいた時から日本語で書かれた本を大量に読み漁りたいと考えていた。オランダでは良質な日本語に飢えていた。僕のひと世代前の海外留学経験者に聞くと、当時は日本語のメディアが海外にはほとんど届かなかったらしい。それと比べれば、youtubeなど日本語を聞けるメディアにアクセスできたものの、それらを観れば観るほど、重厚感のある(僕はこの表現が好きだ)日本語を欲するようになった。オランダに住んで、僕が表面的な会話ではなく、その人らしさが滲み出るような深層にある話を好むようになったことが大きく影響していたのではないかと思う。おかしな話だが、いくつかの果実と引き換えに、僕はその時間を手にした。

 

 帰国してから、初めて読んだ本は、当時のサッカー日本代表主将の長谷部誠が書いた「心を整える」だった。ヨーロッパで現地人と同じ条件で勝負する(日本人だから〜とか一切なしの状況)日本人の気持ちを知りたかった。以前も読んだことがあったけど、その時とはまた違った人間としての長谷部誠の考えに触れることができた気がした。

 

 そこから僕の興味は数珠つなぎのように広がっていった。「オランダ、ヨーロッパ、留学、キャリア、日本」など、当時の自分に引っかかりのあるキーワードを見つけては、読んでいった。本の中に広がる世界は、僕を助けてくれた。自分と同じ悩みを抱える人、自分の向き合っていた困難を既に乗り越えた人の話などは、僕に、焦らず落ち着いてじっくり考える姿勢をくれた。僕の全く経験したことのないエピソードは、僕に世界はまだまだ広いということを教えてくれた。当時、迫り来る就活のプレッシャーに晒されていたこともあって、読書は驚くほど進んだ。この時の半年間で、およそ150冊の本を読んだ。

 

 日本を離れる先輩のはなむけ

 この時期僕の残りの大学生活を変えるような出会いもあった。留学前お世話になっていたボランティア団体の先輩が会おうと連絡をくれた。僕はぜひ!と返事をして、ドライブをすることになった。その先輩はスウェーデン人の彼女さんの帰国に合わせて、そちらに移住するらしく、僕に、はなむけのようなありがたい話をたくさんしてくれた。

 

 途中で、就活の話になった。僕は当時有名で漠然と憧れのあった企業の名前を口にすると、その企業にいる先輩の友人を紹介してくれると言う。ありがたい話だったので、お願いすると、その人は気さくな人ですぐ会ってくれることになった。

 

 大阪で会ったその人は、今までで一番バイタリティの強い人だった。会ってすぐ、僕はすげえと思った。